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第9回東京大学学生発明コンテスト
ポスター
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審査結果・講評
審査結果概要
第9回東京大学学生発明コンテストには、11件の応募がありました。まず、書類選考により、応募された11件を9件に絞り込み、その後、プレゼンテーション審査により、発明大賞1件、生産技術研究所長賞1件、産学連携本部長賞1件、アイデア賞1件、奨励賞2件を選定しました。
審査委員長講評
第9回学生発明コンテストも、前年同様に産学連携本部、(財)生産技術研究奨励会との共催により、無事に終了しました。今年のエントリー件数は25件と例年並みでしたが、応募はその半数程度と若干低調でした。震災の影響により工学系のスケジュールが一か月遅れとなったことなども原因としては考えられますが、また研究室における意義の高い研究成果が職務関連発明として大学に届け出られることにより、学生諸君自身の発明として本コンテストに応募しにくくなっていることも遠因と分析しています。
今回の応募におきましても前々回からの新しい試みとして生まれた課題部門を設けました。この課題は実は、駒場リサーチキャンパス公開のオープニングセレモニーのメインテーマと密接に関連しており、時の最もホットな話題を発明へと導こうとする試みであります。今年度の課題は「ものづくりに貢献する発明」であり、5件の課題部門への応募がありました。応募の主体は例年どおり工学系並びに情報学環・学際情報学府でしたが、次回からは是非、文系の学生のみなさんからも新たな知財の提案を頂くことを期待しております。
第1次書類審査によって9件に絞り込み、それらについては弁理士事務所に先行事例の調査をお願いしました。最終審査においては、自分の発明をわかりやすく紹介するとともに、どのように先行事例と違うのかというディフェンスも含めたプレゼンをお願いしました。試作品を使った具体的なプレゼンもあり、学生諸君の意欲が感じられました。その結果、発明大賞1件、産学連携本部長賞1件、生研所長賞1件、アイデア賞1件、さらに奨励賞2件の受賞が決まりました。なお、今年度も(株)ニコン様より豪華な副賞をご提供いただきました。ここに厚くお礼申し上げます。
発明大賞を獲得した応募「電場を用いた非接触皮張り検出装置」は、複雑な機能を示すソフトマテリアルの表面物性測定という純粋に科学的な見地から始まった研究が、皮張りという塗料や印刷などの工業分野における重要な現象の評価に「意外にも」役立つことを見出した、という提案でした。今、学生の皆さんが興味を持て取り組んでいる研究が将来どんな役に立つのか、発想を切り替えて改めて考えてみれば、それが新たな発明の種になるかもしれません。
産学連携本部長賞の「Bluetooth制御機構内蔵 模型用互換アクチュエーター」は、簡単にリモコンを楽しみたいという素朴な要求を、ビジネスのモデルにまで展開した点が大きく評価されました。今後はより幅広い分野での応用も期待されます。生研所長賞の「凹面上のマイクロパターニングを用いたロールツーロールプロセス用のローラースタンプの製作」は、従来の発想をひっくり返したある意味単純な提案内容ですが、課題が要求するポイントをよく押さえた発表が受賞につながりました。
アイデア賞の「白杖の進行方向記録・確認装置」は、ハンディキャップを持つ人の立場からの優しいアイデアであり、さらに奨励賞の「寝返りでもぐっすりアッパーシーツ」、「赤外光熱変換を用いた示温インクの高解像度・省電力制御システムの発明」は、いずれも甲乙つけがたい秀作であり、この2件を奨励賞とさせていただきました。
冒頭でも述べました通り、国立大学法人における発明の取り扱いの観点からも、本コンテストはある意味岐路に立っております。今後はより良い形での学生の皆さんへの知財教育を進めるために、コンテストの内容にも踏み込んで検討していきたいと考えております。とはいえ来年度はほぼ例年通りの開催を予定しております。ここで東京大学の指導教員の方々にお願いですが、学生のアイデアを尊重し形にするよう指導すること、さらにこれを教材として知財の教育を積極的に進めることは私どもの責務であると思います。是非その場にこのコンテストをご活用いただきますよう、お願い申し上げます。
表彰式
第9回東京大学学生発明コンテストの授賞式が2012年1月25日(水)に行われました。野城智也東京大学生産技術研究所長及び保立和夫東京大学産学連携本部長、また来賓として大木裕史(株)ニコン常務執行役員 コアテクノロジーセンター研究開発本部長が出席されました。
日時 | 2012年1月25日(水) 16:30-17:20 |
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場所 | 総合研究実験棟 中セミナー室 (東京大学駒場Ⅱリサーチキャンパス内) |
式次第 |
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受賞者には金一封、表彰状、楯が贈呈されました。また、上位3賞には(株)ニコンよりカメラが贈呈されました。
受賞者の声
楯と表彰状については、クリックすると大きな画像が表示されます。
下河 有司 (工学系研究科 物理工学専攻 博士課程)
「電場を用いた非接触皮張り検出装置」[課題部門]
この度は、第9回東京大学学生発明コンテスト発明大賞という栄誉ある賞にご選考いただき、大変光栄に思います。また、発明を評価して頂いた発明コンテスト関係者の皆様、研究をご指導いただいた土井正男教授、酒井啓司教授ならびに両研究室の皆様に深く感謝御礼申し上げます。
本発明は「高分子溶液の皮張り現象」の観察を目的としたものです。乾燥中の塗料や接着剤(高分子溶液)の表面には、ぶよぶよとした柔らかい膜が形成されることがあり、これはペンキを塗ったりプラモデルを組み立てたりといった身近なところで体験できる現象です。身近な現象ゆえに簡単でつまらない問題だと思われがちですが、実は様々な物理現象が関係した複雑な現象であり学問的にも応用的にも非常にチャレンジングな問題と言えます。このように身近なところには、知っているようで実は分かっていない現象が沢山あり、それらは産業技術が抱える問題とも直結している場合があります。今回、発明コンテストで皮張り現象の測定手法を評価していただいたことで、「身近に潜む重要な問題」に注目し、工夫することでそれらにアプローチすることの大切さを再認識致しました。
今回の発明大賞受賞は、私にとって全く思いがけない出来事だったため驚いておりますが、苦労して開発した手法を評価していただいたことを大変嬉しく感じております。これを励みに、今後の研究に一層精進して参りたいと思います。最後にこのような発表の機会を与えていただいた発明コンテスト関係者の皆様、先生方、研究室の皆様に改めて感謝申し上げます。
朴 鍾淏 (工学系研究科 精密工学専攻 博士課程)
「凹面上のマイクロパターニングを用いたロールツーロールプロセス用のローラースタンプの製作」[課題部門]
この度、第9回東京大学学生発明コンテストで生産技術研究所長賞をいただき、大変光栄に思っております。まず、今回のコンテストの審査および運営委員の方々、そして事務局の方々に御礼を申し上げます。初めてこのようなコンテストで受賞することで私の発明が評価されるとともに今後の発展や特許化の可能性を確認することができて何よりうれしく思っております。また、今回のものづくりのテーマにも相当するものであり私の発明が将来いろんな分野で使われる、そのスタート時点になったと思っております。これからもこの発明をここで止めず技術的に発展させ、最終的には社会に貢献できるものになれるようにがんばりたいと思っております。なお、私の発明を発表する機会を与えてくださった審査委員の方々に再度、お礼申し上げます。最後に、指導教員である金 範埈(キム ボンジュン)先生と私を育ててくれた両親に厚くお礼を申し上げます。
細谷 勇斗 (学際情報学府 修士課程)
「Bluetooth制御機構内蔵 模型用互換アクチュエーター」[課題部門]
温 文 (人文社会系研究科 基礎文化専攻 博士課程))
「白杖の進行方向記録・確認装置」[一般部門]
李 薈 (工学系研究科 都市工学専攻 博士課程)
「寝返りでもぐっすりアッパーシーツ」[一般部門]
このたびは、「第9回東京大学学生発明コンテスト 奨励賞」を賜り、誠に光栄に存じます。
発明コンテストに参加する方々は主に理系だそうです。発明はほぼ研究に関連するものらしいです。私は工学系研究科に所属しておりますが、今回の発明は専門知識のいらない、日常生活に密接するものです。生活の利便性を向上させ、ものづくりを通じていろどりな生活を作るため、日常生活に関連する発明が有意義だと思います。
学生がいくらのアイディアがあっても、プレゼンする場所がなければ無駄になるかもしれません。この場所を提供して頂いた東京大学生産技術研究所の皆様と審査に携わっていただいた関係各位に厚く御礼を申し上げます。理系の方も、文系の方も、ぜひこの場を使ってご活躍ください。学生発明コンテストのますますのご発展をお祈り申し上げます。
山田 啓己 (工学系研究科 先端学際工学専攻 博士課程)
「赤外光熱変換を用いた示温インクの高解像度・省電力制御システムの発明」[課題部門]
素晴らしい賞を頂きまして、大変光栄に思います。
私の発明は、従来のプロジェクタ、モニタなどの発光型ディスプレイの欠点を補うための「発色型ディスプレイ」の基礎研究の技術として開発したものです。温度により透明度、色相が変化する数種類のサーモクロミックインクに対し、赤外光制御機構と、黒体のもつ高効率の赤外光熱変換特性を利用した、高解像度かつ省電力の表示制御システムを開発しました。この技術は、発光型ディスプレイでは表現できない色相の表現や明所での有効性のみならず、少量の情報量を極めて少ない電力で表現することを目的としています。
現在世界はこれまでになく大変な状況に直面しています。エネルギー問題、環境問題だけでなく、昨年日本を襲った大災害は、私たちに科学技術の正しい利用法とは何か、どのように科学技術と生活の関係を築いていなかねばならないかを改めて深く考えさせることとなりました。今後は、単純な「便利さ」「スピード」「快適さ」だけが技術開発の正義であってはならない時代であると思います。本当に必要な技術は何かを問うことは、不必要な技術についてもその是非を問うことであると考えます。足し算だけでなく、正しく技術を「引き算」できる科学者でありたいと思っています。