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第8回東京大学学生発明コンテスト
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審査結果・講評
審査結果概要
第8回東京大学学生発明コンテストには、過去最多29件の応募がありました。まず、書類選考により、応募された29件を11件に絞り込み、その後、プレゼンテーション審査により、発明大賞1件、生産技術研究所長賞1件、産学連携本部長賞1件、アイデア賞1件、奨励賞4件を選定しました。
審査委員長講評
第8回学生発明コンテストも、前年同様に産学連携本部、(財)生産技術研究奨励会との共催により、無事に終了しました。今年の全応募件数は29件で、これまでで最も多くのご応募をいただきました。今年度は昨年に引き続き事前エントリー制度を採用致しました。昨年来の応募件数の増加は、この制度による「ともかくも応募」と、その後の「時間をかけて構想を練ってからの書類提出」という二段階の過程により、応募に対する気持ちのバリアを下げたことが影響したものと考えます。さらにこれも前回からの新しい試みとして生まれた課題部門についても継続して募集を行ないました。この課題は実は、駒場リサーチキャンパス公開のオープニングセレモニーのメインテーマと密接に関連しており、時の最もホットな話題を発明へと導こうとする試みであります。今年度の課題は「グリーン社会に貢献する発明」であり、8件の課題部門への応募がありました。
今年は応募する学生の所属学部・研究科がより広く分布していることが特徴です。これまで半数強を占めていた工学系が1/3程度となり、かわって教養・農・医・情報といった多くの分野に、応募者の裾野が広がっています。これは東京大学発明コンテストにとって、大変喜ばしい状況だと思います。次回からは是非、文系の学生のみなさんからも新たな知財の提案を頂くことを期待しております。
第1次書類審査によって11件に絞り込み、それらについては弁理士さんに先行事例の調査をお願いしました。最終審査においては、自分の発明をわかりやすく紹介するとともに、どのように先行事例と違うのかというディフェンスも含めたプレゼンをお願いしました。試作品を使った具体的なプレゼンも数多く、学生諸君の意欲が感じられました。その結果、発明大賞1件、産学連携本部長賞1件、生研所長賞1件、アイデア賞1件、そして奨励賞4件の受賞が決まりました。なお、今年度も(株)ニコン様より豪華な副賞をご提供いただきました。ここに厚くお礼申し上げます。
発明大賞を獲得した応募「生体中の臓器を構成する接着細胞を一細胞レベルで培養し、そのハンドリングを可能とするマイクロ流体システムの構築」(一般部門)は、マイクロマシンとバイオを融合させる新しい技術の提案であり、大きな研究の流れにあっても学生自身のアイデアや発想が十分に発明として評価されうることを示した好例だと思います。
産学連携本部長賞の「リール式リニアアクチュエータ」(一般部門)は、大変ユニークな可動機構を実際に作製してデモンストレーション展示を行なった点が大きく評価されました。今後の改良により幅広い分野での応用も期待されます。生研所長賞の「結晶性ポリマーを用いた繰り返し自己修復可能な材料」(課題部門)は、環境に配慮した新しい素材に対する提案であり、課題が要求するポイントをよく抑えた発表が受賞につながりました。
アイデア賞の「効率改善型無線送電装置」(一般部門)は、発表者の趣味と勉強の成果とが相補的に完成させた技術であり、さらに、奨励賞の「マイクロ流体Tジャンクション及び空気圧バルブを用いた脂質二重膜ベシクルの生成方法」、「マイクロ流路内に構築したスリット構造付カンチレバー」、「マイクロ流体用PDMS-ガラス攪拌機」(以上、一般部門)、「『命を守る診療システム』」(課題部門)は、いずれも甲乙つけがたい秀作であり、この4件を奨励賞とさせていただきました。
以上のように発明コンテストはますますその応募件数も増え、応募者の裾野も広がりつつあります。ここで東京大学の指導教員の方々にお願いですが、学生のアイデアを尊重し形にするよう指導すること、さらにこれを教材として知財の教育を積極的に進めることは私どもの責務であると思います。是非その場にこのコンテストをご活用いただきますよう、お願い申し上げます。
表彰式
第8回東京大学学生発明コンテストの授賞式が2011年1月27日(木)に行われました。野城智也東京大学生産技術研究所長及び影山和郎東京大学産学連携本部長、また来賓として大木裕史(株)ニコン執行役員 コアテクノロジーセンター研究開発本部長が出席されました。
日時 | 2011年1月27日(木) 16:30-17:20 |
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場所 | 総合研究実験棟 中セミナー室 (東京大学駒場Ⅱリサーチキャンパス内) |
式次第 |
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受賞者には金一封、表彰状、楯が贈呈されました。また、上位3賞には(株)ニコンよりカメラが贈呈されました。
受賞者の声
楯と表彰状については、クリックすると大きな画像が表示されます。
手島 哲彦 (大学院総合文化研究科 広域科学専攻 修士2年)
「生体中の臓器を構成する接着細胞を一細胞レベルで培養し、そのハンドリングを可能とするマイクロ流体システムの構築」[一般部門]
本日は栄えある第8回東京大学学生発明コンテスト、発明大賞を受賞させていただくことになり、大変名誉に思いますとともに、誠に有難く厚く御礼申し上げます。大賞受賞は思いもよらなかったことでありますが、私の研究を評価いただきました審査員の皆様方、発明コンテスト主催の関係者の皆様方に深く感謝申し上げますとともに、本研究を指導いただきました生産技術研究所・竹内昌治先生、及び不断の懇切なアドバイスを頂戴した竹内研究室の尾上弘晃博士、栗林香織博士をはじめとする諸先輩方に、この場をお借りして改めて感謝申し上げたいと思います。
さて、私の今回の研究テーマである「生体中の臓器を構成する接着細胞を一細胞レベルで培養し、そのハンドリングを可能とするマイクロ流体システムの構築」は、人間の臓器を構成する細胞を一つひとつ区別して培養し、ハイスループットな解析に役立てるというものでありますが、従前の生物学研究で用いられる大量の細胞を用いて遺伝子やタンパク質などの平均的なデータを取っていくという方式とは大変異なり、微細加工技術を駆使して単細胞レベルで細胞の挙動を観察し、一つ一つの細胞のデータを一括して取得できるという極めて新しいアイデアをもって、細胞学研究に貢献することを目指したものであります。そして、その応用可能性としては基礎的な生物学にとどまらず、再生医療や新規薬剤開発等、医学や薬学の幅広い分野にまで、今後応用できるのではないかと考えております。昨年度の第7回に引き続き、本年度もコンテストに参加させていただくにあたりまして、修士課程での研究を推し進めていく中で特に特許性、知的財産という視点を強く意識して参りました。その中で、研究内容がどのような製品に応用が可能か、また関連する市場規模の大きさを調べたうえで研究テーマを選び、実験を重ねていくため、普段の研究生活から全く違った目標をもって研究に取り組めるようになりました。
最後となりましたが、私は、本日頂戴しました受賞の栄を励みといたしまして、専門であります微細加工技術の領域に加え、医学や薬学等関連する領域にも研究テーマをさらに広げ、今後もあくなき好奇心と探究心をもって、研究に一層精進してまいりたいと思っております。このようなコンテストの場で発表する機会を提供して頂いた東京大学生産技術研究所産学連携委員会、産学連携本部、生産技術研究奨励会の皆様に心から御礼申し上げます。誠に有難うございました。
大矢 延弘 (大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 博士2年)
「結晶性ポリマーを用いた繰り返し自己修復可能な材料」[課題部門]
このたびは「第8回東京大学学生発明コンテスト 生産技術研究所長賞」をいただき、大変に光栄に思っております。賞というものに縁遠かった私の化学人生ですが、初めて賞を得ることができました。今後の人生の励みとしたいと思います。
今回の学生コンテストでは、書類審査の後に発明を短時間でアピールするプレゼンテーションがありました。その発表や質疑応答を通して、自分の発明の新規性や優れた点の明確化及びそれを他者に伝えることの大切さそして難しさを再確認することができました。今後、他者に自分の研究を説明する機会に今回の経験を活かす事が出来ると思います。
最後に、指導教員である吉江尚子先生、研究室の構成員である児玉俊輔君、齋藤俊介君、藤田健弘君、審査に携わっていただいた関係各位に厚く御礼を申し上げます。
武井 祥平 (学際情報学府 先端表現情報学コース 修士1年)
「リール式リニアアクチュエータ」[一般部門]
この度、産学連携本部長賞という素晴らしい賞を賜り、大変嬉しく思っております。
私は昨年まで社会人として空間デザインの会社で働いておりまして、受賞したアイデアはその現場で抱いた問題意識から生まれたものです。元々は立体形状ディスプレイをどうにか小型かつ簡素に実現してイベント等の分野で実用化できないか、と思索し考案した駆動技術でしたが、他の用途にも広く応用できるのではないかということで現在大学院でこの技術の研究をさせて頂いております。
一度社会を経験した私が産学連携本部長賞という栄誉を頂いたことは大変意義深く光栄なことと感じております。社会の現場で得た知識や人脈によって産学の連携を加速させ、イノベーションへ繋げることができるよう今後とも頑張っていきたいと思います。
今回このようなコンテストを主催してくださった生産技術研究所、産学連携本部、財団法人生産技術研究奨励会の皆様には厚く御礼申し上げます。最後に、研究に関して厳しくも温かな指導を頂いている苗村健先生をはじめとする苗村研究室の先生方、いつも様々な形で手助けをしてくださっている研究室の仲間に、心から感謝いたします。
柴田 寿一 (工学部 航空宇宙工学科 学部4年)
「効率改善型無線送電装置」[一般部門]
この度は受賞に与りまして、大変光栄に思います。
本発明の発端は、私が高松高専二年生の時、共振型高電圧発生装置に興味を頂いた事です。当時は、制御工学の知識も、またコンピュータシミュレーションのノウハウもありませんでしたが、学校で習ったばかりの電気工学の知識を駆使して、自力で実験を繰り返した事が懐かしく蘇ります。
しかし六年前の段階では、オリジナリティがあったとは言えませんし、理論的な裏付けに乏しいものでした。大学に入り、専門的な勉強を重ねる中で、私自身と共に本発明も段階的に発展してきました。ゆっくりと温め、育て上げてきたものが、熟成の期間を経て、今回認められ、大変嬉しいです。
最後になりましたが、航空宇宙工学専攻の鈴木真二教授、新領域の堀洋一教授、同所属の小柴公也教授にはそれぞれ、制御工学、電気回路、そして無線送電装置の最新情報を教えて頂きました。この場をお借りして、感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。
茂木 克雄 (大学院工学系研究科 精密機械工学専攻 博士3年)
「マイクロ流体用PDMS-ガラス攪拌機」[一般部門]
受賞のお知らせを頂いたとき、私は木田太良先生のことをふと思い出しました。
木田先生はご承知のように、浪速のモーツァルトとして広く知られている方です。木田先生が作曲者として手掛けた曲は優に2000を超えているそうです。もしも、木田先生がモーツァルトよりも先に生まれていたならば、モーツァルトはウィーンの木田太良と呼ばれていたと言われております。
歴史に「もしも」が無いことは重々承知しておりますが、もしも、私がエジソンよりも先に生まれていたならば、私は発明王として名を馳せていたかもしれません。いえ、むしろエジソンが奨励賞の栄誉に輝いていたかもしれません。
この度はこのような素晴らしい賞をいただき、大変光栄に思っております。
倉員 智瑛 (大学院総合文化研究科 広域科学専攻 修士2年)
「マイクロ流体Tジャンクション及び空気圧バルブを用いた脂質二重膜ベシクルの生成方法」[一般部門]
このたびは、「第8回東京大学学生発明コンテスト 奨励賞」を賜り、誠に光栄に存じます。
本発明は脂質膜ベシクル(直径10μmほどの微小なカプセル)生成の新たなアプローチを目指すものです。脂質膜ベシクルはその生体親和性の高さから生化学や薬学の分野で非常に有用です。例えば、リポソームにDNAやタンパク質といった生理活性のある物質を封入した細胞モデルリアクタや人工細胞を作製し、生化学的に反応を解析することができます。また、薬剤を封入して標的となる部位(細胞や器官)へ送り届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)の材料として活用されています。本発明によって、脂質ベシクルの生成において今までは実現が難しいとされていた、簡便に、封入効率よく、単層、均一直径、細胞サイズに生成することが可能になります。生産技術に関わる発明内容ですので、特許性が高いです。今回のコンテストでそのことを再認識できたことは非常に有意義でした。審査に携わっていただいた関係各位に厚く御礼を申し上げます。
朴 柾昱 (大学院工学系研究科 電気系工学専攻 博士2年)
「マイクロ流路内に構築したスリット構造付カンチレバー」[一般部門]
この度は「第8回東京大学学生発明コンテスト 奨励賞」をいただき、とてもうれしく思っています。本発明はマイクロ流路内に集積化した振動型カンチレバーバイオセンサです。振動型センサは高感度であることが特徴で、バイオセンサとして期待されています。しかしサンプルがある液中で振動させなければならず、期待するほどに感度が上がらないという問題点がありました。そこで考案したのが空気と液体界面で振動するカンチレバーでした。本発明で高感度かつ、低ノイズのバイオセンサができると期待しています。
今回の発明コンテストに参加したことで、色々勉強になりました。特に特許文章のように明瞭的に書くこと、プレゼンテーションの際に短い時間内(8分)で自分のアイデアをはっきり述べることは良い経験だったと思います。発明コンテストの関係者の方々に深く感謝致します。
四津 有人 (大学院医学系研究科 外科学専攻 博士3年)
「『命を守る診療システム』」[課題部門]
昨年の大賞に続いて、今年は奨励賞を頂きました。連続入賞することができ、大変嬉しく思います。医師として働いて11年目になりますが、現場で「こういうものが有るべきなのに、なぜ無いのだろう」とよく思ってきました。今回のアイデアもその一つで、現場の必要から生まれたものです。はじめに、アイデアが湧く経験をくださった、患者さん一人一人に感謝したいです。
命がその力を発揮するのは、本質的には内的なダイナミクスによるのだと感じています。一方、医療の現場は医療崩壊の真っ直中です。高度先端医療が開拓される傍ら、人手も含めた底上げへの取り組みが不十分で、手続き・処置・書類などをこなすことに追われています。これでは患者も医療従事者も疲れてしまいます。外的な事も命には大切ですが、機械にできることは、機械にさせた方が迅速で堅実なこともあるのです。
私は現在、臨床と研究の二足のわらじを履いて、発育発達リハビリテーション医学に取り組んでいます。やるべき課題は、先端から底上げまでまだまだ沢山あります。これからもロボット工学・神経科学・神経工学・細胞工学・バイオメカ・生活工学・安全工学などの諸領域の皆様と一緒に、多くの開発ができたらと思います。
最後に、コンテストの場を提供して頂いた東京大学生産技術研究所・産学連携本部・(財)生産技術研究奨励会の皆様と、いまいちど患者様に、心から御礼申し上げます。ありがとうございます。